『PHYSINT』PS中止から3か月でXboxへ、ソニーが切った理由は予算と独占

『メタルギア』を作った男の新作を、PlayStationは6月に切り、Xboxが9月に拾った。

要点

  • 小島秀夫監督のアクション諜報ゲーム『PHYSINT』は、ソニーが2026年6月中旬に中止を通告し、9月9日にXboxがパブリッシャーとして引き継ぐと発表した。
  • 日本では:発売日・価格・対応機種はいずれも未発表。Xboxは自社作品をXboxとPCの両方で出すのが基本方針だが、『PHYSINT』の対応機種は公式にはまだ何も出ていない。
  • PlayStationで遊べる前提だった作品が、PS版の有無を含めて白紙になった。Xboxの慣例どおりならXboxとPCだが、それも未確認。完成は小島監督自身の2025年の見立てで「あと5〜6年」。

正直、ここまで露骨な「捨てて拾われる」を見たのは久しぶりね。2024年1月のState of Playで、ソニーは『PHYSINT』を自社の看板みたいに扱って発表した。それから2年半余り。手を引いたのは発表した側で、引き取ったのはライバルだった。しかも小島監督のX投稿によれば、6月中旬に「予期せず」中止の通知を受け、そこから3か月、必死で新しいパートナーを探したという。ソニーが公式に認めたのは9月に入ってからで、声明は「熟慮の末、Kojima Productionsとの『PHYSINT』の協業から離れるという難しい決断をした」という体温のない文句で、理由には触れていない(Gematsuが掲載した声明の原文より)。

2024年1月にPlayStation公式チャンネルが公開した発表映像。小島監督本人が「アクション諜報ジャンルへの回帰」を語る内容で、ゲーム映像はほぼ無い。この動画が今もPlayStationのチャンネルに残っていること自体が、今回の顛末の皮肉になっている。

6月に切られ、9月9日に拾われた。空白の3か月で何が起きたか

PHYSINTの経緯を4段階で示した年表。2024年1月にState of PlayでPS独占として発表、2025年5月に小島監督が完成まであと5〜6年と発言、2026年6月中旬にPlayStation Studiosが中止を通告、2026年9月9日にXboxがパブリッシュを発表
発表から引き継ぎまで2年半余り。動いたのは最後の3か月だけ。Loot Times作成

時系列を並べると、ソニー側の腰の引け方がよく分かる。発表は2024年1月。2025年5月には小島監督が「完成まであと5〜6年かかる」と話していて、Push Squareはその発言を受けて、PS5ではなくPS6向けの作品で、発売は2030〜2031年頃と見積もっている。そして2026年6月中旬、PlayStation Studiosから中止の通知。KojiProはそこから9月まで水面下で動き、Xboxが手を挙げた。

Xbox側の発表は2026年9月9日(米国時間)のXbox Wireで、Xbox CEOのAsha Sharma氏は「クリエイターには、どこでどうやってアイデアを形にするかを選ぶ自由がある」と述べた(Gematsuが掲載した声明より)。これは事実の説明というより、ソニーへの当てつけとして読むのが正しいわね。小島監督側のコメントは「ODに続いてXboxとの関係を広げる」というもので、Xboxはすでにホラー作品『OD』を発売する契約を結んでいる。つまりKojiProの現在の新作2本は、両方ともXboxの手元に揃った。

提携はゲームだけでは終わらない。

Xbox Wireの発表文では映画とテレビにも協業を広げるとしていて、Kotakuは『PHYSINT』と『OD』の映像化権が契約に含まれると伝えている。ソニーはピクチャーズもミュージックも自前で持っている会社なのに、その部分を丸ごとマイクロソフトに渡した格好になる。

ソニーが挙げなかった理由を、Bloombergが3つ挙げた

ソニーの声明には理由が一切ない。代わりに9月11日、BloombergのJason Schreier記者が関係者の話として中止の背景を報じ、Push Square・Kotaku・Windows Central・VGCがそろって後追いした。要約すると3点。第一に、完成まで何年もあるのに締切を落とし続け、大幅な予算超過が見込まれていた。第二に、『DEATH STRANDING』1作目と2作目がPlayStationの収益目標に届かなかった。第三に、永久にPlayStation独占にならない作品に「数億ドル」を投じる気がなかった。

ソニーが手を引いた理由と数字をまとめた6枚のカード。Bloombergが報じた理由3点(締切超過と予算超過、DS1・DS2の収益目標未達、永久独占にならない作品への投資回避)と、Alinea Analytics推定のDS2販売本数250万本、DS2開発費1.5〜2億ドル、シリーズ売上高約4.13億ドル
理由はBloomberg報道、数字はAlinea Analyticsの推定値。どちらもソニー公式の数字ではない。Loot Times作成

3つ目が本音だと思う。VGCの記事は、『DEATH STRANDING』の2作がどちらもPS時限独占のあとPCとXboxに出ていて、他機種版ではソニーがパブリッシャーではないため実入りがほとんど無かった点を指摘している。KojiProはソニーの子会社ではなく、『DEATH STRANDING』の権利もあとからソニーから買い戻している(Windows Central)。だからソニーが数億ドルを出しても、数年後には他社のハードで同じゲームが売られる。これはわたしの整理。VGCはそれとは別に、Concordの失敗後にPlayStation社内で製作マイルストーンが厳格になり、『PHYSINT』がそれを満たせなかった点も報じている。

Kotakuはもう一つ、人の話を添えている。小島監督と長年関係を築いてきたPlayStation幹部の多くがすでに会社を去っていて、残った経営陣には次作に賭ける理由が無かった、という指摘だ。数字より、こっちのほうが効いている気がする。

2作で推定4.13億ドル、それでもアナリストは「大きくは超えていない」と見る

「収益目標に届かなかった」がどの程度なのか、ソニーは数字を出していない。代わりにGameSpotが9月11日に、Alinea AnalyticsのアナリストRhys Elliott氏の推定を載せている。1作目の開発費が約1億ドル、2作目が1.5〜2億ドル。2作目の販売本数は250万本(PS5が180万本、PCが70万本)で売上高は約1.7億ドル。1作目は約500万本(同記事の推定で、集計時点と機種の内訳は不明)だから、続編は投資を増やして本数はその半分という計算になる(DS2の推定はPS5とPCの2機種分)。シリーズ合計の売上高は約4.13億ドルで、Elliott氏の見立ては「純粋に財務面から見れば、ソニーの立場は理解できる。シリーズはほぼ確実に損益分岐点を超えているが、大きく超えてはいない」というものだった。

ここで念のため言っておくと、これは全部アナリストの推定で、ソニーの決算数字でもKojiProの発表でもない。売上高4.13億ドルが手数料や宣伝費を差し引く前の数字なら、開発費2.5〜3億ドルとの差がそのまま利益になるわけでもない。それでも、投資を1.5〜2倍に増やして本数が半分なら、「目標未達」という言葉の意味は察しがつく。GameSpotの記事は、俳優起用のコストも採算を圧迫した要因に挙げている。

とはいえ、ここまで書いてきて思うのは、ソニーの判断が経営として間違っているとは言えないってこと。実際、ソニーは自社スタジオの『Marvel’s Wolverine』を控えている。自社IPで自社ハードを売る商売に集中するなら、他人のIPに数億ドルを出して5〜6年待つのは確かに割に合わない。問題は、それを6月に決めておいて、公に説明したのが9月の、理由に一切触れない短い声明だけだったことと、発表の場を自分たちの番組にしておいて後始末をライバルに任せたことのほうよ。

Xboxが「簡単な判断」と言い切れた理由はPC、残る不安はエンジン

Xbox側の広報はBloombergに対して「小島さんに賭けるのは簡単な判断だ」と語っている(VGCとKotakuが引用)。強気に聞こえるけれど、理屈は通っている。Xboxは自社作品を最初からXboxとPCの両方で出すので、「独占が守れない」というソニーの悩みはそもそも存在しない。Kotakuによれば、Xboxが『PHYSINT』に価値を見た決定打はPC配信で、PlayStationが独占作のPC移植を止めたと報じられている点と対照的だという。PCで出せるかどうかが開発者側の選択理由にもなり始めている、というのはわたしの推測ね。

ただ、Xboxにとっても無傷の買い物ではない。PC Gamerが指摘するように、『PHYSINT』がソニー傘下のGuerrilla Gamesが作ったDecimaエンジンをこのまま使えるのかは分かっていない。『DEATH STRANDING』シリーズが採用してきたエンジンだ。エンジンを変えるなら開発期間はさらに伸びる。「あと5〜6年」が2025年の発言だったことを思い出すと、2030〜2031年の見立てからさらに後ろにずれることも普通にあり得るし、その頃のXboxがどんなハードで商売をしているのかも、今の時点では誰にも言えない。

日本のファンはどうなる:PS版は白紙、PCかXboxになる公算

日本のプレイヤーにとって一番大きい変化は、単純だ。国内でのXboxの存在感を考えれば、『PHYSINT』が仮にPS版を持たないまま出るなら、小島監督の新作を遊ぶために国内のファンはPCかXboxを用意することになる。『FF7 リベレーション』がXbox同時展開に踏み切ったのとは方向が逆で、こちらはPSが「無い」側に回る可能性がある話ね。

『PHYSINT』の権利が誰のものかは、今回の発表では明かされていない。KojiProが握っているなら将来的にPS版が出る余地は残るけれど、それはXboxが許す範囲での話で、ソニーが6月に自分で手放したカードでもある。Xboxが『OD』と『PHYSINT』の2本にいくら払い、そのうち何割が映画とテレビの分なのか。ソニーが「収益目標」の中身を今後も出さないのか。Decimaのままで作れるのか。そして権利の所在はどこか。答えが揃わないまま、小島監督の次のゲームは3か月で会社の看板を掛け替えた。

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