CoDがチート販売者の自宅を訪ねて撮影、375組織停止の裏に残る疑問

玄関のチャイムが鳴って、パーカー姿の男が扉を開ける。立っていたのは法務の使いで、封筒を差し出しながら要件を淡々と説明する。受け取った側は「差止請求って何ですか」と聞き返す。それだけの一分弱が、いまアクティビジョンの対チート広報でいちばん強い一枚のカードになっている。

撮影されていたのは、Rust や Apex Legends 向けのチートでも名前が知られる Elocarry。米オハイオ州の自宅である。

1分の映像に、ドラマは一切ない。それが効いている

公式 X アカウントが公開した映像には、怒鳴り合いも逃走も無い。玄関先の会話は終始礼儀正しく、Kotaku が「派手さは無い」と書いた通り、見世物としては拍子抜けする出来だ。PC Gamer にいたっては、リアリティ番組を期待した読者には気の毒な短さだと皮肉っている。

ただ、それを「肩透かし」で片付けるのは読み違いだと思う。チート対策の発表は長らく「今シーズンは何万アカウントをBANしました」という、検証しようのない数字の羅列だった。画面の向こうの匿名の誰かが消えたと言われても、プレイヤーの実感は動かない。今回アクティビジョンが差し出したのは、住所を特定されて自宅の玄関に人が来る、という生活実感のある絵だ。抑止力の設計としては、BAN数のプレスリリース百本より賢い。

アクティビジョンの対チート戦果をまとめた表。販売網375組織以上の停止、警告書80通以上の送付、業者30社以上の閉鎖、今回の対象は米オハイオ州のElocarry、公開手段は公式Xの約1分の映像、過去の判決はEngineOwningに対する1450万ドル。
公式Xが同時に提示した数字と、今回の一件の基本情報。Loot Times作成

375組織、80通、30社。数字は大きいが、粒度が粗い

映像に添えられた公式の言い分はこうだ。チート販売網を375組織以上停止させ、差止請求を80通以上送り、業者を30社以上閉鎖に追い込んだ。さらに「必要なら訴訟も辞さない」と続く。ここは広報として、かなり楽な勝ち筋を選んでいる。チートを買う側を叩けば反発が出るが、売る側を叩いて怒る人間はほとんどいないからだ。

とはいえ数字の中身は開示されていない。「停止させた375組織」が摘発なのか、決済代行から締め出しただけなのか、単にドメインを潰しただけなのかで重みは全く違う。アクティビジョンには2024年、チート販売業者 EngineOwning に対して1450万ドルの賠償判決を勝ち取った実績がある。あれは法廷を通した、検証可能な数字だった。今回の三つの数字は、いまのところ会社の自己申告でしかない。

褒めるところは全力で褒めたい。売り手を名指しで追う方針そのものは、業界でいちばん筋がいい対策だ。チートの供給源は無数のプレイヤーではなく、数十のビジネスだからである。ただ、成果を誇るなら粒度も一緒に出すべきだ。

Elocarry が止めたのは CoD 向けだけ、という落ち

訪問を受けた後、Elocarry の Discord には「内部で検討中のため、Call of Duty 向けの提供を一時停止する」旨の告知が出た。Kotaku が確認したところ、サイトでは Rust、Apex Legends、Marvel Rivals 向けのエイムボットや ESP が変わらず売られている。

つまり店は畳んでいない。棚から CoD の商品だけを下げた。

これは今回の手法の射程をそのまま示している。差止請求は個別のパブリッシャーが個別のタイトルについて出すものだから、一社が本気を出しても、業者にとっては売上の一部が欠けるだけで済む。エピックやヴァルヴやレスポーンが同じ体力で同じことをやらない限り、供給側の商売は続く。アクティビジョンの動きが立派なのは間違いないが、これは業界全体で足並みを揃えないと終わらない種類の戦争だ。

RICOCHET の手応えと、PC 勢が払わされている代金

今回の訪問は、モダン・ウォーフェア4の早期アクセスベータ期間中に行われた。ベータの日程は8月21日から25日までが早期アクセス、8月28日から9月1日までがオープン。RICOCHET Anti-Cheat は初日から稼働していた。公式は結果について、感染率が下がり、ハードウェアBANの回避が難しくなり、対処までの時間が改善したと説明している。ベータのチート密度を見た上で、いちばん目立つ売り手の家に人を送った、という順番だったわけだ。

MW4ベータからチート業者訪問までの時系列。8月21日に早期アクセスベータ開始でRICOCHETは初日から稼働、8月下旬に法務担当がオハイオ州のElocarry宅を訪問して撮影、8月28日に公式Xが映像と375組織停止・80通送付・30社閉鎖の数字を公開、その後ElocarryがCoD向けのみ販売停止しRustなど他タイトルは継続
ベータ開始から製品版発売までの流れ。Loot Times作成

そのRICOCHETの土台として、MW4 は PC でのオンラインプレイに TPM 2.0 とセキュアブートを要求する。公式ブログが「信頼できる基盤を作るため」と書いている通りの設計思想だが、古い自作機や設定を触りたくない層にとっては、チートを一度も使ったことがないのに入場料を払わされる形になる。カーネル級の常駐に抵抗があるユーザーの不満も、この夏ずっと消えていない。『Halo: Campaign Evolved』でログイン必須の設計が正規購入者だけを殴った件と、構図はよく似ている。売り手を追う施策が拍手されるのは、買っていない側にコストを押し付けないからだ。同じ会社が両方をやっている、という捻れは指摘しておきたい。

ベータの中身そのものについては、シリーズ初のキャンペーン任務が入った件を以前の記事で扱っている。

マルチプレイヤートレーラーで見えるもの

公式チャンネルが公開しているマルチプレイヤートレーラーが、今回チート業者に荒らされかけていた戦場そのものだ。

盾を構えた突入や近距離の撃ち合いが並ぶ映像で、要するに壁抜けの索敵と自動照準がいちばん効いてしまう間合いの設計になっている。ここを守れるかどうかで、10月23日に出る製品版の寿命が決まる。PS5、Xbox Series X|S、PC に加えて Switch 2 でも展開されるぶん、守備範囲は前作より広い。

次に見るべきは、二回目があるかどうか

一度きりの訪問と一本の映像なら、それは施策ではなくキャンペーンだ。製品版が出た後の11月や12月にも同じ執行が続き、しかも今度は EngineOwning のときのように法廷の記録として数字が残るなら、アクティビジョンは本気で商売の構造を潰しにいっていることになる。逆に映像が今回限りで、次の報告がまた「累計BAN数」に戻るなら、375という数字は発売前の景気付けだったと読むほかない。

そして Elocarry のサイトには、いまも Rust と Apex Legends の商品が並んでいる。玄関に人が来たのに店が開いたままだという事実を、どの会社が次に動かすのか。

出典